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第3回いかなごのくぎ煮文学賞 入選作品発表

第三回 いかなごのくぎ煮文学賞 グランプリ作品
               村上 由香さん ( 神戸市須磨区 )

その日朝ごはんを食べながら妹が言った。
「 いかなごが一番すき。お兄ちゃんは?」
 妹はおしゃべりで、思いついたことをすぐ口に出す。いきなりなのはいつものことだ。
 ぼくもいかなごだけど、まねしになるし…
ふと、この前おばあちゃんの家で味見したのを思い出して、ぼくはこう言ってしまった。「 いかなごの炊きはじめの、まだ白いやつ。」
 しまった! これは秘密だったんだ。でももうだめだ。妹の目がキラキラしていた。
 2時間後、ぼくと妹は電車の中にいた。
 話を聞いて、おかあさんがすぐにぼくたちを西行きの電車に乗せたのだ。あんたたち、春休みでよかったわね、と言いながら、おかあさんが一番うれしそうだった。
 駅につくと、改札でおばあちゃんが待っていてくれた。そして小さい声で、「 あのね…いかなご、今年はもう終わったんやって。」
 そのとたん、妹は、「 えーっ、白いいかなごがたべたいよぅ。たべたいたべたい!」とべそをかき出した。おばあちゃんは困り顔でぼくを見た。ごめん。とにかくおばあちゃんの家へ、ぼくは妹の手を引っぱって歩いた。もしかしたらいか


なごがあるんじゃないかと期待して角を曲がったけど、この前あんなに並んでいた魚屋さんはひっそりとしていた。
 妹の泣き声を聞き、玄関に出てきたおじいちゃんはすぐに、「 よし、白いいかなごを探しに行くぞ。」と言った。涙でぐしょぐしょの顔をタオルでふいてやって、妹を自転車の後ろにひょいと乗せると、あっという間にどこかに行ってしまった。ぼくとおばあちゃんはあっけにとられてただ見ていただけだった。
 しばらくして「 ただいま!」という元気な声がした。「 白いいかなご、あったよ!」
 妹が持ってきたビニール袋をのぞくと、長方形のざるみたいなのに入った、白い…?
「 釜あげや。うまいぞ。さぁ、お昼にしようか。お駄賃にあつかん一本つけてくれるか。」
 おじいちゃんはそう言ってウインクした。

三田 完 先生 講評

村上さんは昨年度も、今回と同様に少年の視線で描いた文章でエッセイ部門の特選を獲得した方です.妹が食べたいと言い張る「 白いいかなご」に、ミステリー風な興味をそそられ、さらにユーモアたっぷりの結末に笑いました。わずか800字で創られた物語──しかし、大きな広がりを感じる文章でした。2年連続の受賞、おめでとうございます。


第三回 いかなごのくぎ煮文学賞 準グランプリ作品
               紫敷布 さん( 愛知県刈谷市 )




「 くぎ煮とは語れば長いおぼろ月 」




三田 完 先生 講評

それぞれの家庭にあるくぎ煮の味、それを作るひとの心遣い、そして、食べる家族の表情……。たしかに、くぎ煮とは一言で語り尽くせない食文化だと思います。くぎ煮の奥深さに、 「 朧月」( 春の夜の、ほのかにかすんだ月)という季題が見事にマッチしました。


第三回 いかなごのくぎ煮文学賞 特選作品


≪ 川柳 ≫ 橋立 英樹 さん( 新潟県新潟市 )

「 困るのはくぎ煮の旨い左遷の地 」

三田 完 先生 講評

おみごとなくぎ煮川柳、かつ、サラリーマン川柳でもあります。 平安の昔、須磨、明石で日々を送った光源氏も、明石の方だけでなく、くぎ煮に惹かれたのではないか──そんな連想まで湧いてくるではありませんか。


≪ 川柳 ≫ 中原 修 さん( 大阪府大東市 )

「 お裾分けしすぎてくぎ煮買いに行き 」

三田 完 先生 講評

笑える句です。でも、じつはこういう体験をした方がけっこういるのではないでしょうか。多くのひとの共感を得る、あるある…の一句だと思います。


第三回 いかなごのくぎ煮文学賞 特選作品


≪ 俳句 ≫ 折橋 剛生 さん( 埼玉県川越市 )

「 風光り幼きまなこくぎ煮見る 」

三田 完 先生 講評

くぎ煮の季節は暖かなそよ風の季節。そして豊かな光の季節です。 幼児の視線がくぎ煮に向かっている──ただそれだけのことですが、「風光る」という季題を用いて気持のいい句になりました。


≪ 短歌 ≫ 本田しおん さん( 東京都武蔵野市 )

「 知恵の輪となりて釘煮の炊き上がり
ご飯の湯気を試すかのよう 」

三田 完 先生 講評

くぎ煮が炊き上がり、小さないかなごが絡み合う様子を「知恵の輪」と表現したのがお手柄です。それがまた、ご飯の湯気に揺れ…。想像するだけで、お腹が空いてきます。


第三回 いかなごのくぎ煮文学賞 特選作品


≪ エッセイ ≫ 野上 夏美 さん( 神戸市東灘区 )

 昨年の3月、学生時代に仲の良かった3人が、約20年ぶりに合って女子会なるものをすることになった。私は、友人2人に初めて作ったいかなごのくぎ煮を持って行くことにした。
 久しぶりに会った3人だったが、時を越えておしゃべりに花が咲き、和やかな時間を過ごした別れ際、1人がおもむろにおみやげを差し出した。するともう1人もおみやげを差し出した。私も、「 初めて作ったいかなごのくぎ煮やけど。」と言って渡そうとしたところ、友人2人があっと声をあげた。「 実は、私も。」「 私もくぎ煮やわ。」なんと、偶然にも3人ともおみやげに自分で作ったくぎ煮を持ってきていたのだ。あまりにもおかしくて、3人で大笑いした後、帰宅するのも忘れてさらにおしゃべりに興じた。くぎ煮を作ったきっかけをそれぞれに聞いてみると、1人は母親が歳をとりくぎ煮卒業宣言をしてしまい家族に作る人がいなくなってしまったことで、1人は自分なりのくぎ煮を作ってみたかったとのことだった。私といえば昨年初めて子どもを出産し、「 母親なるものは、くぎ煮を作ることができてこそ一人前だ。」という気持ちがどこかにあったのだと思う。帰ってから食べてくらべてみると、1人のは固すぎ、もう1人のはからすぎ、私のもなんだかぴんぼけな味だった。にもかかわらず、みなそれぞれ


に苦心して作った様子が想像され、心はほっこりがあたたかくなった。
 今年も3月に合う約束をしている。もちろん、くぎ煮持参で。3人とも少しは上達しているだろうかと楽しみである。



三田 完 先生 講評

久しぶりに出会った旧友3人がそれぞれ持参したくぎ煮…。
淡々としるした文章ですが、人と人を結ぶくぎ煮の存在が読者に伝わって来ます。